過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群とは、腸に器質的な病気(大腸がんや大腸ポリープなど)は存在しないにもかかわらず、機能的な症状がある病気です。
腹部の検査を受けても、特に異常はないといわれ電車の中で腹部に強い痛みを感じて途中で電車から降りてしまう、仕事中に急にお腹が痛くなってしまう、便秘や下痢などが慢性化しているなどの症状がある場合は、過敏性腸症候群が疑われます。
以前は過敏性大腸症候群と呼ばれていましたが、腸管の機能異常は大腸だけでなく、小腸も関係していることがわかってきたため、最近は過敏性腸症候群と呼ばれています。過敏性腸症候群は日本人に多くみられる病気で、約10%の方に過敏性腸症候群の症状がみられます。

 

過敏性腸症候群の症状

過敏性腸症候群の症状は、排便によって改善する腹痛と便通の異常(下痢型、便秘型、および下痢便秘交替型)を主体とします。症状はごく軽いものから重いものまであります。便通の異常は、下痢型では軟便~水様便、回数も1日数回から数十回と幅があります。
便秘型では1回あたりの排便の量が少なく残便感が強く、時に兎糞状の便になります。消化管の症状も下痢や便秘、腹痛などだけでなく、吐き気、げっぷ、胸やけなどの上部消化管症状が出現することもあります。その他にも、頭痛、肩こり、めまい、動悸、頻尿などの全身症状や、抑うつ気分、不安感、焦燥感などの精神的な症状があります。なぜ様々な症状が起こるのかというと、腸管のみでなく全身の平滑筋の機能異常があるからと考えられています。
過敏性腸症候群の症状には、出やすい状況があります。
一般的には、仕事中、会議中、授業中など、強いストレスや緊張を感じる時に、症状が出やすくなります。
その逆に仕事や学校が休みの日や、通勤・通学中でも帰社・下校時には症状が出にくいということがあります。
過敏性腸症候群は、その症状から大きく3つに分けることができます。

 下痢型

 腹痛や腹部違和感を感じる慢性的な下痢

 便秘型

 腹痛や腹部違和感を感じる慢性的な便秘

 下痢・便秘交代型

 下痢型と便秘型の症状を繰り返す

 

過敏性腸症候群の原因

過敏性腸症候群の原因は、不規則な生活、ストレス、精神的な緊張、不安などがあります。中でもストレスは過敏性腸症候群の大きな原因であるとされています。腸管の運動は、脳と腸管を結ぶ自律神経(交感神経と副交感神経があります)と腸管自体の神経線維によりコントロールされています。交感神経は腸管の運動、緊張を抑制し、副交感神経は全く反対の性質があります。これらに障害が起きると腸の運動が乱れて、症状が起こります。不規則な生活、ストレス、精神的な緊張、不安などが自律神経を介して腸に伝達され、腸が過敏になり腹部症状を引き起こします。

 

過敏性腸症候群の検査

過敏性腸症候群は、直接病気を診断する検査はありません。便中の血液の有無を調べる便潜血の検査や血液検査を行なうこともあります。

 

過敏性腸症候群の診断

診断は問診が中心で、自覚症状、症状のパターン、生活習慣、食事、ストレス、排便回数と便の状態、いつから症状があるか、どのような状況下で症状が出るか、これまでにかかった病気はないかどうか、生活上のストレスなどについて詳しく確認し、他の疾患を除外することで診断します。

 

過敏性腸症候群の治療法

過敏性腸症候群の治療法は、生活習慣の改善、食事療法、薬物療法、心理療法などがあります。いずれかの療法を組み合わせて、自分にあった治療法を行うことが重要になってきます。過敏性腸症候群は生命に関しては問題がなく、治療の目標が症状をコントロールし、うまく付き合うことが重要であることを理解して、生活の質を高めることです。

<食事療法>

過敏性腸症候群の食事療法は、バランスのとれた食事をゆっくりと規則正しくとることがポイントです。「下痢型」、「便秘型」、「下痢・便秘交替型」のパターンに応じて適切な食事のポイントをとりましょう。

「下痢型」

香辛料、冷たい飲み物、油分の多い食品、発酵食品など、腸を刺激して下痢を悪化させる食べ物は控えましょう。

「便秘型」

水分や食物繊維をよくとるようにしましょう。

「下痢・便秘交替型」

腸の症状にあわせた食事を選びましょう。

 

<薬物療法>

薬物療法過敏性腸症候群の薬物療法には、様々な種類の薬があります。症状にあわせて薬の調節をする必要があります。消化管機能調節薬や便性状の改善薬や対症療法薬などを中心に使用しますが、心理的な症状がある場合は抗不安薬や抗うつ薬を使用することもあります。

 

・男性における下痢型過敏性腸症候群治療剤(イリボー)

イリボー錠は、セロトニン5-HT 3 受容体拮抗剤です。セロトニンは、神経伝達物質の1つで、消化管の運動に大きく関係しています。ストレスなどによって遊離が促進されたセロトニンが、腸管神経に存在する5-HT3 受容体を活性化することにより、消化管運動を亢進させ、便通異常を引き起こします。また、腸が受けた刺激によってもセロトニンが遊離し、求心性神経終末の5-HT3 受容体に結合することで、脳に痛みを伝えます。イリボー錠は、5-HT3 受容体を選択的に阻害することで、消化管運動亢進に伴う便通異常(下痢・排便亢進)を改善するとともに、大腸痛覚伝達を抑制し、腹痛及び内臓知覚過敏を改善することが期待できます。男性向け下痢型過敏性腸症候群治療薬です。便秘型に対する効能はありません。また、女性では、血中濃度が上がりやすく、便秘などの副作用が起こりやすいことが臨床試験で示されています。このため、女性には適応しません。

 

・便性状の改善薬(コロネル)

高分子重合体を医薬品に改良したもので、便の性状を変化させ、便通を整えます。下痢・便秘の両方に効果があります。下痢の場合は便の水分を吸収し、便を固めます。便秘の場合は吸収した水分を保ち、便が固くなりすぎるのを防ぎます。

 

・症状を軽減する対症療法薬(下痢時はフェロベリン、便秘時は酸化マグネシウム)

下痢の場合には整腸剤や下痢止めを使用します。便秘の場合には下剤を使用します。

 

・消化管の機能調節薬(セレキノン)

消化管の運動を調節して、敏感な状態をやわらげます。

 

・抗不安薬(メイラックス)

不安や緊張をやわらげます。

 

・抗うつ薬(パキシル)

気分の落ち込みや抑うつ状態を防ぎます。過敏性腸症候群の予後

 

過敏性腸症候群の予後

治療により一時的に改善されても、再発することが多いため、定期的な薬の内服が必要になることもあります。

 

日常生活の注意点

生活習慣を改善は、生活の質を高めます。生活習慣の乱れは過敏性腸症候群の原因のひとつです。

1 バランスのよい食事

2 規則的な生活

3 十分な睡眠と休養

4 リラックスできる時間

5 適度な運動

6 趣味の活用と気分転換

7 下痢型では、外出前の排便と外出先でのトイレの場所の確認

1~7以外にも読書、趣味、スポーツなど、リラックスするための方法は人それぞれです。過敏性腸症候群を完璧にすることは、誰にとっても不可能ですし、完璧にしようとすると逆にストレスになることもあります。うまくコントロールすることは大事ですが、あまり神経質になる必要はありません。

麦島内科クリニック